高低差のある敷地に建物を設計する際には、「がけ条例」を理解する必要があります。がけ条例に該当すると建てられる範囲に制限を受けるため、計画に大きな影響を与える可能性があります。
この記事では、がけ条例に基づく設計のポイントや、擁壁の安全性を確保するための重要事項について解説します。
がけの定義
「がけ」とは、がけ下端からその最高部までの高さが2mを超える斜面を指します。
このような「がけ」がある場合、東京都建築安全条例第6条に該当します。


2mを超えたら、東京都安全条例第6条に該当します。
一方で、2メートル以下のがけや擁壁でも、建築基準法第19条第4項が適用されるため、擁壁の設置や安全対策が必要です。擁壁が安全であるかどうかは、ひび割れや劣化の有無を目視で確認するだけでなく、専門家の診断が推奨されます。たとえ2メートル以下でも、安全対策については行政に相談することをおすすめします。
がけの高さが2メートルを超える場合、建築基準法第19条第4項に加え、東京都建築安全条例第6条にも適合させる必要があります。
東京都安全条例第6条(がけ条例)に該当した場合の対応策
1.既存の擁壁が安全であることを証明する。
2.建築物をがけの高さの2倍以上離す
3.「鉄筋コンクリート造」や「鉄骨鉄筋コンクリート造」で建物を計画する。
1.既存の擁壁が安全であることを証明する。
まず、既存の擁壁が安全であることを確認する必要があります。
安全と認められる擁壁には、検査済証が交付されたものや、宅地造成等規制法・都市計画法に基づく検査済証が発行されたものがあります。これらの確認は、各区の建築指導課や都市計画課で行えます。
しかし、私の経験では、東京都内の多くの擁壁は検査済証がなく、安全性を証明するのが困難なケースが多いです。仮に検査済証があった場合でも、設計者は擁壁にひび割れや劣化がないか確認し、必要に応じて安全性を証明しなければなりません。
2.建築物をがけの高さの2倍以上離す
既存擁壁の安全性を証明できない場合は高さの2倍の距離を「がけ」から離して建築物を建てる方法があります。例えば、がけの高さが3メートルであれば、6メートル以上離して建物を建てれば建築することが可能です。

しかし、がけの高さに応じて、敷地内で建物を建てられる範囲が制限されるため、敷地の有効利用が難しくなることがあります。そのため、敷地全体の設計やレイアウトを慎重に考慮する必要があります。
3.「鉄筋コンクリート造」や「鉄骨鉄筋コンクリート造」で建物を計画する。
上記1.2が対応できない場合は、主要構造部を「鉄筋コンクリート造」か「鉄骨鉄筋コンクリート造」で計画する必要があります。
また、そのような場合は、計画地ががけの下にあるのか、がけの上にあるのかで対応策が変わります。
①がけ下に建物を計画する場合
がけ下に建築する場合は、「防護壁を設置する」か「建物の構造を鉄筋コンクリート造で計画する」方法があります。

防護壁は上の図のように建築物と一体的にしなくても、独立して計画することが可能です。
また、防護壁は安息角ラインよりも高い位置に設置する必要があります。
建物を鉄筋コンクリート造の場合は防護壁を設けずとも擁壁に近接して計画することが可能です。ただ、安息角ラインよりも低い位置に開口部を設置することはできません。

安息角とは、擁壁が崩壊した場合に影響する角度のこと指します。この角度は、材料の粒径、密度、摩擦係数などによって決まりますが、東京都安全条例では30°と定められています。
②がけ上に建物を計画する場合
がけ上に建築する場合は、建物の荷重が既存擁壁に影響を与えないようにするために、安息角ラインより下部に基礎もしくは杭を計画する必要があります。既存擁壁に負担をかけない設計ができれば、擁壁に近接した場所でも建物の建設が可能です。

コメント